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Vol.111 アルコール飲料消費の地域性

 

 夏真っ盛りの8月。うだる暑さの中、皆様いかがお過ごしでしょうか。
 しっかりとした水分補給で熱中症対策を行いましょう。
 ちなみに、最近では透明飲料がブームで、透明なビールまで出てきているそうです。
 夏にビールは欠かせないという人も多いのではないでしょうか?

 ということで、今回は「アルコール飲料」消費の地域傾向について取り上げてみたいと思います。果たして、地域によって傾向に差はあるのでしょうか?
 それぞれのアルコール飲料の歴史と共にレポートしていきます。

1.データの準備

 まずは比較検討の為のデータを準備したいと思います。
 今回は「家計調査年報」を参考にして弊社独自に全国市区町村単位で推計した推計消費購買力データと、そのデータを搭載するデータベース処理システムである「MDS」を用いて、全国の市区町村別にどのような傾向があるのか探っていきたいと思います。

 家計調査にあるデータの内、以下のものを取り上げてみたいと思います。

・酒類購買力
・清酒購買力
・焼酎購買力
・ビール購買力
・ウイスキー購買力
・ワイン購買力
・発泡酒、ビール風アルコール飲料購買力
・チューハイ、カクテル購買力

 今回はこれらのデータを住民基本台帳世帯数で除した「世帯当りの(年間)購買力」で見ていきたいと思います。
 (消費購買力データ及び住民基本台帳世帯数は2016年データを使用。住民基本台帳世帯数は総数。)

 

2.データの比較

 それではさっそく、各購買力の結果をマップで見ていきたいと思います。
 このマップでは、赤い塗潰しが濃いほど購買力が高いことを示しています。(単位:円/世帯)

※おことわり
本レポートにおきましては、マップスケールの都合上、沖縄県及び一部の島しょ部の表示を割愛しております。ご了承ください。

2-1.清酒

 まずは清酒購買力。米と麹と水を主原料とするアルコール飲料で、日本酒の一種です。

[図1]世帯当り清酒購買力[図1]世帯当り清酒購買力

 結果を見てみると、東北、北陸で高くなっています。その理由は何なのか探ってみたいと思います。

 日本酒の歴史ははるか昔の上代まで遡り、平安時代には現代の製造手法とほぼ変わらない形ができあがっていたそうです。また、諸説あるものの、平安時代以前には「濁醪(だくろう)」という濁酒(米から作る醪が混じったもの)が成立していたといわれ、これが訛った「どぶろく」と呼ばれる清酒(日本酒)の原型も確立されていきました。
 このどぶろくは1940年の酒造税制定による自家醸造禁止化以前は各家庭で日常的に造られていたそうで、その後も東北の農村部では変わらず製造され、消費されていたといいます。
 ちなみに、現在では「どぶろく特区」が制定され、対象地域内ではどぶろくの製造と販売が許可されています。
 東北、北陸は特区に制定されている地域が多く、昔から米を主原料としたアルコール飲料へのなじみが深いことが現代の傾向につながっているのかもしれません。

 

2-2.焼酎

 続いて、焼酎購買力。日本では16世紀頃から造られていたとされています。

[図2]世帯当り焼酎購買力[図2]世帯当り焼酎購買力

 結果を見てみるとやはりというべきか、九州で高く、東北・中国でも高い傾向にあります。
 焼酎は清酒(日本酒)の製造に向かない地域で造られており、南九州などで顕著です。
 焼酎の中でもいくつか種類がありますが、米・麦・芋焼酎のいずれにも九州に主要産地があり、中でも芋焼酎に用いられるサツマイモの栽培に適した環境であった南九州では、清酒(日本酒)より焼酎が好まれるようになったとみることができそうです。
 東北でも高い購買力ですが、こちらは米焼酎の製造が盛んで、やはり米を原料としたアルコール飲料の消費が高い傾向のようです。
 ちなみに、「泡盛」で有名な沖縄県ですが、意外にもあまり高い購買力ではありませんでした。

 

2-3.ビール

 次はビール購買力です。ビールは江戸時代半ばに記された『和蘭問答』の中で記述が確認されています。

[図3]世帯当りビール購買力[図3]世帯当りビール購買力

 ビール購買力でも東北が高く、北海道・近畿でも高い傾向です。
 日本で最初のビール醸造所は1869年に横浜の外国人居留地に設立されており、その後各地で醸造所が設立されていきましたが、ビール購買力の結果でも地域性が現れています。
 また、大手ビールメーカーの存在する沖縄県ですが、ビール購買力は低調でした。
 「とりあえずビール」というイメージから全国的に似たような傾向になるのではと思っていましたが、かなり明確に差が出ており筆者としては驚きもありました。

 

2-4.ウイスキー

 ウイスキー購買力を見ていきます。ウイスキーが日本にやってきたのは黒船来航の時だと言われています。

[図4]世帯当りウイスキー購買力[図4]世帯当りウイスキー購買力

 ウイスキー購買力は北海道で圧倒的に高くなっています。
 一体なぜなのでしょうか?

 理由の一つとして、製造環境が挙げられそうです。
 日本で最初の本格的なウイスキー蒸溜所は大阪府三島郡島本町に建設された「山崎蒸溜所」で、1923年着工、1924年に完成しています。
 その後、日本のウイスキーの父と呼ばれた竹鶴政孝によって1934年に北海道余市郡余市町で「余市蒸溜所」が建設されます。これは、ウイスキー誕生の地であるスコットランドの気候によく似た気候風土と原材料があることが要因でした。
 こうした素地の他、後述しますがアルコール度数の高いお酒であることも考えられそうです。
 連続テレビ小説「マッサン」のモデルとなったことで知っている方も多いのではないでしょうか。

 

2-5.ワイン

 ワイン購買力を見ていきます。日本で初めて西洋の方法によってワイン(当時は薬用葡萄酒と呼ばれていました)が造られたのは19世紀頃と見られています。その一方で、弊社本社所在地である北九州市(旧地名:豊前小倉)の藩主細川忠利が1628年にワイン造りを命じたという記述が見つかっているそうです。

[図5]世帯当りワイン購買力[図5]世帯当りワイン購買力

 関東甲信で高い結果となっています。山梨県はブドウの産地として有名ですが、一大産地となっていったのは江戸時代になってからでした。そして、明治期には民間初のワイン醸造所が同じく山梨県で誕生しています。その後、東京オリンピックや大阪万博以降の食生活の欧米化に伴い、ワインの認知度も高まっていったそうです。マップを見てみると関東甲信の他、近畿でも高くなっており、上記のイベントも影響を与えていそうです。

 

2-6.発泡酒・ビール風飲料

 発泡酒・ビール風飲料購買力は中国・四国地方及び沖縄県で高くなっています。
 1950年・60年代には市販の発泡酒が発売されていましたが、その後1990年代に入るまで下火の時代でした。そこから一時はブームとなりましたが、出荷量は年々減少傾向にあります。
 この結果をもたらしたと考えられる要因は次章にて述べたいと思います。

[図6]世帯当り発泡酒・ビール風飲料購買力[図6]世帯当り発泡酒・ビール風飲料購買力

 

2-7.チューハイ・カクテル

 チューハイ・カクテル購買力は下図のようになっています。
 現在のチューハイの基礎は1970年代後半に成立したとみられており、比較的新しいタイプのアルコール飲料です。

[図7]世帯当りチューハイ・カクテル購買力[図7]世帯当りチューハイ・カクテル購買力

 全国的に満遍なく飲まれていますが、九州ではかなり低くなっています。
 元々は「焼酎ハイボール」と呼ばれていたものが略されてチューハイとなったのですが、九州は焼酎の購買力が高かったことから、わざわざ焼酎を割らずにそのままで飲むことを好む故にこのような結果になっているのかもしれません。
 ちなみに、現在では缶チューハイの原料に使われるのは焼酎ではなくスピリッツ(ウォッカ)やリキュールが大半だそうです。

 

3.アルコールに耐性があるのはどの地域?

 ここまで各種のアルコール飲料の地域傾向を見てきましたが、東北地方は複数種類のアルコール飲料で購買力が高くなっています。もしかして地域でアルコールに対する強さに差があるのでしょうか?
 調べていくと、どうやらアルコール飲料に対して強いか弱いかは遺伝的要素が大きいようです。

[図8]アセトアルデヒド分解能力の高い遺伝子の出現率[図8]アセトアルデヒド分解能力の高い遺伝子の出現率

 原田元教授の調査(1993年、2001年)によると、アルコールは摂取後体内でアセトアルデヒドとなり、そのアセトアルデヒドを分解する能力を持つ遺伝子の型の違いがアルコール耐性に影響を与えるそうです。分解能力の高い遺伝子をもつ人は北海道・東北・九州・沖縄に多く、秋田県での出現率が最も高い結果だったそうです。
 逆に中国・近畿・東海での出現率は低くなっており、渡来人(弥生人)が影響していると仮定されています。縄文人はアルコール耐性が高いタイプだったものの、渡来人(弥生人)は低いタイプで、その両方が混血していく中でアルコールに弱い人が増えていったというものですが、筆者もこの説にはかなり納得がいきました。中央政権である近畿を目指すルート上でまさに数値が低くなっていることがわかります。中国・四国地方で発泡酒やチューハイ・カクテルなど、比較的アルコール度数の低いお酒の購買力が高いのはこの影響と考えられそうです。
 前章にて軽く触れていましたが、北海道や東北、南九州では、比較的アルコール度数の高い焼酎やウイスキーなどの購買力も高くなっていました。これもやはり分解能力の高い遺伝子を持つ割合が高いからこその結果といえるのかもしれませんね。

 

4.最後に

 最後に、各アルコール飲料の購買力データを偏差値化し、その市区町村で最も偏差値の高いアルコール飲料の購買力データで塗り分けマップを作ってみました。

[図9]市区町村別の最も偏差値の高いアルコール飲料購買力マップ[図9]市区町村別の最も偏差値の高いアルコール飲料購買力マップ

 それぞれの購買力マップで傾向を見てきましたが、こうしてみると各地域の特色が鮮明に表れているのがわかりますね。
 都合上割愛していますが、沖縄県で最も偏差値の高いアルコール飲料購買力は「発泡酒・ビール風飲料購買力」。
 アルコール分解能力の高い遺伝子を持つ人が多い地域ですが、「泡盛」や沖縄県にある大手ビールメーカーのビールなどといったアルコール飲料よりも「発泡酒・ビール風飲料」の方が高偏差値となっており、驚きがありました。比較的安価であることが好まれたのかもしれません。

 また、酒類支出が多い地域は下図のようになっており、東北地方は軒並み支出が高くなっています。
 アルコール耐性が高いのと併せて、何種類ものアルコール飲料に対して支出していることが要因と言えそうです。

[図10]世帯当り酒類購買力[図10]世帯当り酒類購買力

 ここまで各地域のアルコール飲料消費傾向について見てきましたが、いかがでしたでしょうか。地域の傾向というのが殊の外現れていたように感じます。
 地域にはどんな特色があるのか、ぜひ皆さんも調べられてはどうでしょうか。

 

【参考文献】

原田勝二(2001)「飲酒様態に関与する遺伝子情報」,『日本醸造協会誌』96巻(4)pp.210-220,日本醸造協会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/96/4/96_4_210/_article/-char/ja
(最終閲覧日:2018年7月13日)

原田勝二(1993)「縄文人と酒」,『日本醸造協会誌』88巻(12)pp.938-942,日本醸造協会
https://www.jstage.jst.go.jp/article/jbrewsocjapan1988/88/12/88_12_938/_article/-char/ja
(最終閲覧日:2018年7月13日)

ニッカウヰスキー「ニッカウヰスキーヒストリー」
https://www.nikka.com/story/
(最終閲覧日:2018年7月13日)

余市町「余市町でおこったこんな話 その121『マッサン、余市へ』」
https://www.town.yoichi.hokkaido.jp/machi/yoichistory/2014/sono121.html
(最終閲覧日:2018年7月13日)

『薬史学雑誌』4巻(2),日本薬史学会,1969
http://yakushi.umin.jp/publication/pdf/zasshi/Vol4-2_all.pdf
(最終閲覧日:2018年7月13日)

サントリー「日本ワインの歴史」
https://www.suntory.co.jp/wine/nihon/column/rekishi01.html
(最終閲覧日:2018年7月13日)

EurekAlert! Science News「日本産ワインは400年前に作られていたことが明らかに」
https://www.eurekalert.org/pub_releases_ml/2017-01/ku-k011617.php
(最終閲覧日:2018年7月13日)

キリン歴史ミュージアム「酒・飲料の歴史」
http://www.kirin.co.jp/entertainment/museum/history/index.html
(最終閲覧日:2018年7月13日)

 

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